脂質異常症は生活習慣病の1つとされています。若いうちは遺伝子異常の影響がなければなりにくい病気ではありますが、加齢とともに生活習慣(食生活・運動・喫煙・休養など)やその他外部要因になって発症しやすくなる病気です。
生活習慣病とは
生活習慣病という概念は、平成8年に導入された概念です。それ以前は「生活習慣病」という言葉はなく、「成人病」という名前がありました。ただ、定義が異なっており、「成人病」は脳卒中、がん、心臓病などの「加齢」という要素に着目して用いられてきて、国による対策が行われていました。一方、生活習慣病の定義は厚労省の資料によると
「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義することが適切であると考えられる
生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申) より
「成人病」の名前は現在では聞かれなくなりましたが、主要の3つの病気は、現在の民間保険の三大疾病(※)と似ています(※現在の民間保険の三大疾病は「がん」は一緒ですが、「脳卒中」⇒「脳血管疾患」、「心臓病」⇒「心疾患」と少し範囲が広がって紹介されています)
脂質異常症とは
脂質異常症とは血液中の脂質の値の異常のことを指します。具体的にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高値(高LDLコレステロール血症)、トリグリセライド‘(中性脂肪)が高値(高トリグリセリド血症)、またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低値(低HDLコレステロール血症)、と血液中の脂質のそれぞれの基準値からいずれかが外れている状態です。
過去には「高脂血症」言われていましたが、HDLコレステロールが低値の場合も同様の「高脂血症」という診断名だった為、2007年の動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に際し、診断名「高脂血症」を「脂質異常症」に改訂されました。

高LDLコレステロール血症
食事との関係
高LDLコレステロール血症と食事の関係として、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取が多い事や、不飽和脂肪酸の摂取不足などは高LDLコレステロール血症の要因と言われています。ここで注目すべきは、コレステロールの摂取によってLDLコレステロール値が多くなる事よりも、飽和脂肪酸の摂取でもLDLコレステロール値が上昇する事です。
摂取するコレステロールの量よりも、肝臓で合成されるコレステロールのほうが多い為、飽和脂肪酸の摂取を抑える事の方が効果的な場合が多いです。飽和脂肪酸は動物性の脂肪に含まれる事が多いです。そして、オリーブオイルなどの植物性の油や青魚の油に多く含まれる多価不飽和脂肪酸はコレステロールを減らす食品と言われています。
家族性高コレステロール血症
生活習慣病と呼ばれる高コレステロール血症ですが、生活習慣が要因とならない場合もあります。それが家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)で、遺伝性の疾患になります。
家族性高コレステロール血症は、更に「ヘテロ接合体性家族性高コレステロール血症」と「ホモ接合体性家族性高コレステロール血症」に分けられます。ヘテロ接合体性の方が軽症ですが、患者数は多いです。一方、ホモ接合体性の方が患者数は少ないですが、重症のケースが多いです。
▼関連記事:ホモ接合体家族性高コレステロール血症とは?|MTP阻害薬とは?特徴と作用機序と副作用・構造式も
血液中の脂質ってどんな状態?
血液中の脂質はリポタンパク質(lipoprotein)という粒子の外側に親水性のリン脂質やアポリポタンパク質があり、内部に中性脂肪やコレステロールがある複合体粒子の状態で、血漿中に存在します。模式図は下図のようになっています。リポタンパク質は、大きく分けてカイロミクロン・カイロミクロンレムナント・VLDL・IDL・LDL・HDL の5つに分類されます。
medicalnewstodayより引用
代謝されていく順番ではキロミクロン⇒キロミクロンレムナント⇒VLDL⇒IDL⇒LDL⇒HDLの順番になります。全てリポタンパク質でリポタンパク質内のトリグリセライドやコレステロールなどの比率が変わります。
以下に各リポタンパク質の解説を行います。

カイロミクロンとは
食事で摂取した中性脂肪(トリグリセライド:TG)を腸から体内の各組織へ輸送するリポタンパク質になります。各組織ではリポタンパク質リパーゼによってトリグリセライドが降ろされます。
カイロミクロンレムナントとは
各組織でトリグリセライドを降ろし終えたカイロミクロンは、カイロミクロンレムナントとなります。
レムナントは”残ったもの”という意味があるので、各組織にトリグリセリドを降ろし終わった残り物とも言えます。
VLDLとは
肝臓へ戻ったキロミクロンレムナントは、今度は肝臓で合成したトリグリセライドを積み、再び血中で全身を回ります。血中を回っている時に毛細血管に存在するリポタンパク質リパーゼによって各組織にトリグリセライドが降ろされます。
VLDLはVery Low-Density Lipoprotein(超低比重リポタンパク質)の頭文字をとった略になります。
IDLとは
肝臓で合成したトリグリセライドを各組織に分配し、降ろし終えるとトリグリセライドがほとんどない状態になり、IDLになります。そして、肝臓へ再び戻ります。
IDLはIntermediate-Density Lipoprotein(中間比重リポタンパク質)の頭文字をとった略になります。
IDLはVLDLレムナントとも呼ばれることもあります。カイロミクロンレムナント同様、各組織にトリグリセリドを降ろし終わったものなので、”レムナント”がついています。
LDLとは
LDLは肝臓で合成したコレステロールを積んで、肝臓から各組織にコレステロールを運搬する役割を果たします。各組織ではLDL受容体がある各組織にコレステロールを届けます。
LDLはLow Density Lipoprotein(低比重リポタンパク質※)の略となります。コレステロールが結合しているリポタンパク質の比重がある一定範囲内の場合、LDLコレステロールと呼ばれます。(※低密度リポタンパク質とも訳せると思うのですが、日本動脈硬化学会と厚労省の表記に合わせました。)
HDLとは
HDLは血中で余っているコレステロールを回収して、肝臓へ持ち帰ります。
HDLはHigh Density Lipoprotein(高比重リポタンパク質※)の略となります。コレステロールが結合しているリポタンパク質の比重がある一定範囲内の場合、HDLコレステロールと呼ばれます。(※高密度リポタンパク質とも訳せますが、日本動脈硬化学会と厚労省の表記に合わせました)
各リポタンパクの流れをまとめると下図のようになります。
日本循環器病予防学会誌 第56巻 第1号 P.31-46より
コレステロールの構造式
コレステロールの構造式は以下のようになっています。ステロイドの中でステロールと呼ばれている化合物の一種です。まずはコレステロールの構造式から。

比較の為にステロイドの構造式です。

トリグリセライドの構造式
トリグリセロールに脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールのことをいいます。TGと略したりトリグリセリドとも言われたりします。
グリセロール1分子にパルミチン酸3分子が結合した時の例を見てみます。図解する為に化学反応式のように書いています。

参考
・生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)
・一般社団法人日本動脈硬化学会Q&A
・スマートライフプロジェクト
・レムナントリポ蛋白とnon-HDLコレステロール
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