MTP阻害薬はミクロソームトリグリセライド転送蛋白(microsomal triglyceride transfer protein)阻害薬の略で、MTP 阻害により VLDL 産生を低下させ、LDL-C、TG が低下します。2022年月6現在、日本ではロミタピドメシル酸塩(先発医薬品名:ジャクスタピッド)が雄一のMTP阻害薬として発売されています。MTP阻害薬の読み方は「えむてぃーぴーそがいやく」と読みます。
ミクロソームトリグリセライド転送蛋白とは?
ミクロソームトリグリセライド転送蛋白質(MTP)は、肝細胞及び小腸上皮細胞に多く発現しています。このたんぱく質はトリグリセライド(TG)をアポタンパクBへ転送して、小腸ではカイロミクロン、肝臓ではVLDL形成に関わります。
この「転送」の部分がわかりにくいかもしれませんので、解説します。カイロミクロンとVLDLはリポタンパク質の1種です。カイロミクロンは小腸で中性脂肪を受け取り、体内に運搬する役割を担います。その後、運搬の終わったカイロミクロン(正しくはカイロミクロンレムナント)は肝臓へ戻り、今度は肝臓で合成したトリグリセライドを積み、再び血中で全身を回ります。この小腸と肝臓でのトリグリセライドへ積む作業(転送)をMTPは担っています。
効能又は効果は?
ロミタピドメシル酸塩は日本ではホモ接合体家族性高コレステロール血症(HoFH)という希少疾患についてのみ、効能又は効果として承認されています(2022年6月現在)。LDL-CやTG低下の効果があるのなら、一般の脂質異常症にも使ってもいいのでは?と思いましたが、審査報告書によると、申請者は以下のように申請しています。
本剤を投与する際には、肝機能障害や胃腸障害等の有害事象が発現するリスクがあるが、HoFH患者では、既存の脂質低下療法では十分なLDL-Cが得られず、心血管イベントの発現リスクが高いため、本剤投与によるベネフィットを考慮すると、これらの有害事象の発現リスクは許容できると考える。また、HoFH及び非FH患者では、LDLR機能がHoFH患者と比較して維持されており、既存の脂質低下療法でも一定のLDL-C低下効果が得られると考えられることから、本剤投与による肝機能障害や消化器症状等の有害事象が発現するリスクは許容されないと考える。以上より、本剤の投与対象をHoFH患者のみとすることが妥当と判断した
ジャクスタピッド審査報告書より
また、PMDAも上記内容で妥当と判断しています。
ホモ接合体家族性高コレステロール血症とは?
家族性高コレステロール血症(FH:Familial Hypercholesterolemia)は遺伝性疾患で、25万人以上の患者数と推定されています。家族性高コレステロール血症はホモ接合体とヘテロ接合体の2種類があり。ヘテロ接合体家族性高コレステロール血症は500人に1人以上、ホモ接合体家族性高コレステロール血症は100万人に1人以上の頻度で認められています。また、ホモ接合体家族性高コレステロール血症は指定難病に指定されています。
どういった遺伝子異常があるの?
血中のLDLコレステロールはLDL受容体で肝臓に取り込まれ、分解されます。家族性高コレステロール血症では、LDL受容体の遺伝子やそれに関わる遺伝子に異常があり、血中LDLコレステロールが高くなります。
LDL受容体とそれに関わる遺伝子両方に遺伝子異常がある場合を「ホモ接合体」、どちらか片方に異常がある場合を「ヘテロ接合体」といいます。
ヘテロ(Hetero):「異なる」「別の」「他の」という意味、ギリシャ語由来の接頭辞“hetero-”。
ホモ(Homo):「同じ、よく似た」という意味。ギリシャ語由来の接頭辞“Homo-”)
遺伝子の分野で同じ対立遺伝子を持つものをホモ接合体、違う対立遺伝子を持つものをヘテロ接合体といいます。ヒトの遺伝子は父親の遺伝子(2つで1組)のうちの片方と母親由来の遺伝子(2つで1組)の片方の一つずつが一組となって、その子の遺伝子となります。
画像引用 国立研究開発法人 国立循環器病研究センターより
ステム
ステムは-tapideとなります。ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質阻害薬のステムになります。
構造式
ロミタピドメシル酸塩の構造式は次のようになっています(英名の太字+下線の部分はステムの部分です)
ロミタピドメシル酸塩 Lomitapide Mesilate (先発医薬品名:ジャクスタピッド) |
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参考
ジャクスタピッドカプセル 審査報告書
ジャクスタピッドカプセル インタビューフォーム
家族性高コレステロール血症について 国立循環器病研究センター
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