n-3系多価不飽和脂肪酸は脂質異常症の中でも高TG(トリグリセリド)血症の改善に用いられます。イコサペント酸(EPA:eicosapentaenoic acid)やドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)により肝臓でのTGの合成抑制などにより高TG血症を改善します。
医薬品としては、先発医薬品名がエパデール(有効成分:イコサペント酸エチル(EPA-E))やロトリガ(有効成分:オメガ-3脂肪酸エチル(イコサペント酸エチル、ドコサヘキサエン酸エチル(DHA-E)))が販売されています。
薬理と薬物動態
EPA-EやDHA-Eは小腸でEPAとDHAへと加水分解され、TGやリン脂質等の構成脂肪酸となります。その後、肝臓におけるTG合成・TG分泌の抑制、TG消失の促進等を介し脂質低下作用を示すと考えられています。
TG合成をもう少し詳しく
トリグリセライドはグリセロールに脂肪酸が3つエステル結合した化合物になります(詳しくはコチラ)。体内では以下のような合成経路を辿ります。
ニュートリー株式会社 トリグリセリドより
EPAとDHAはトリグリセライド合成を担う酵素に対して不十分な基質で、他の脂肪酸のエステル化を阻害する為、TG合成を抑制すると考えられています。
原料は魚の油
イコサペント酸エチルとドコサヘキサエン酸エチルの少し変わったところは魚油中の成分を原料として製造されているところになります。発見のきっかけはグリーンランドの人々動脈硬化性疾患が少ないという疫学調査によります(1975年の話です)。
主な副作用
下痢などの消化器症状や血小板凝固抑制作用による出血傾向などがあります。
n-3系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸とは
色々な用語が組み合わさった言葉になっていますので、それぞれを分解して解説していきます。
脂肪酸とは
脂肪酸は、炭素、水素、酸素の3種類の原子で構成され、炭素原子が鎖状につながった一方の端にカルボキシル基(-COOH)がついています。
以下のような構造です(下図例はパルミチン酸の例で、炭素数は16です)

不飽和脂肪酸とは
脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類に分けられます。違いは二重結合の有無です。二重結合があると不飽和脂肪酸、二重結合がないと飽和脂肪酸と呼ばれます。脂肪酸の例で挙げたパルミチン酸は飽和脂肪酸です。
一方、下図のオレイン酸は不飽和脂肪酸です。

オレイン酸は二重結合が1つなので一価不飽和脂肪酸と言われます。一方、二重結合が2か所以上の脂肪酸は多価不飽和脂肪酸と呼ばれます。また、その中でもメチル基末端(CH3)側から何番目に二重結合があるかで、n-3系(オメガ-3)多価不飽和脂肪酸、n-6系(オメガ-6)多価不飽和脂肪酸、n-9系(オメガ-9)多価不飽和脂肪酸などに分かれ、メチル基末端(CH3)から順番に数えた時に3番目の炭素に最初の二重結合があればn-3系(オメガ-3)、6番目にあればn-6系(オメガ-6)、9番目にあればn-9系(オメガ-9)となります。
下図にn-3系(オメガ-3)多価不飽和脂肪酸、n-6系(オメガ-6)多価不飽和脂肪酸、n-9系(オメガ-9)一価不飽和脂肪酸の例を示します。
n-3系(オメガ-3)多価不飽和脂肪酸(例:α-リノレン酸) |
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n-6系(オメガ-6)多価不飽和脂肪酸(例:リノール酸) |
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n-9系(オメガ-9)一価不飽和脂肪酸(例:オレイン酸) |
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構造式
話を戻して、有効成分であるEPA-EとDHA-Eの構造式を示します。EPA-EとDHA-Eの加水分解物であるEPAとDHAはn-3系(オメガ-3)脂肪酸に属します。加水分解はエステル結合(-O-)の部分で分解されます。
イコサペント酸エチル(EPA-E) Ethyl Icosapentate |
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ドコサヘキサエン酸エチル(DHA-E) Docosahexaenoic Acid Ethyl |
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脂肪酸まとめ
ここまで解説した脂肪酸の種類などをまとめると以下のようになります。

参考文献
各製品のインタビューフォーム、審査報告書
農林水産省HP
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