HMG-CoA還元酵素阻害薬は肝臓でコレステロールが合成されるときに必要な酵素であるHMG-CoA還元酵素の働きを阻害します。
これにより、(A)肝臓でのコレステロールの生合成が抑制されることと、(B)それにより肝臓の細胞表面でLDL受容体が増加し、血液中から肝臓へのLDLコレステロールの取り込みが促進され、血液中のLDLコレステロール値を低下させます。現在では(B)の影響が大きいと考えられています。「スタチン」と呼ばれる事の方が多く、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、高LDLコレステロール血症治療では第一選択薬とされており、日本でよく使われている薬になります。
スタチン系薬剤の強さ一覧
日本で発売されているスタチン系薬剤には、ロスバスタチン、ピタバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンなどがあります。
一般名 | ロスバスタチン カルシウム | ピタバスタチン カルシウム | アトルバスタチン カルシウム水和物 | シンバスタチン | プラバスタチン ナトリウム | フルバスタチン ナトリウム |
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先発医薬品名 | クレストール | リバロ | リピトール | リポバス | メバロチン | ローコール |
1日用量(mg) | 2.5~10 | 1~4 | 10~40 | 5~20 | 10~20 | 20~60 |
腎排泄(%) | 10 | <2 | 2 | 13 | 60 | 6 |
半減期(h) | 20 | 10 | 13~16 | 2 | 1.8 | 0.9 |
作用強弱 | ストロング | ストロング | ストロング | スタンダード | スタンダード | スタンダード |
溶解性 | 水溶性 | 脂溶性 | 脂溶性 | 脂溶性 | 水溶性 | 脂溶性 |
HMG-CoA還元酵素とは
HMG-CoA還元酵素は(ヒドロキシメチルグリタリル補酵素Aレダクターゼ:3-Hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme-A reductase)の略です。CoAとは、コエンザイムAという補酵素の事です。HMG-CoAは「エイチエムジーコエー」と読みます。
細胞内の小胞体膜上に局在する膜貫通たんぱく質で肝臓にてコレステロールを合成する際(メバロン酸経路)の律速酵素の1つです。
コレステロールの合成経路
そもそもコレステロールは、摂取した酢酸や体内で合成された酢酸やグルコースの解糖で得られた①ピルビン酸などを元にアセチルCoAが合成され、②そのアセチルCoAを元にコレステロールが合成されます。コレステロールと聞くと不要なものと悪い印象を持つ方もいるかもしれませんが、過剰なコレステロールが不要なだけであって、生命維持に不可欠な物質です。
さて、その合成経路をもう少し詳しく見ていきます。
グルコースからピルビン酸への解糖、ピルビン酸からアセチルCoAの合成
まず食物から摂取したグルコース(ブドウ糖)は解糖という経路で分解されつつ、体内でエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)が取り出され、ピルビン酸に分解されます。

続いて、ピルビン酸はいくつかの酵素が複合体(多酵素複合体)を形成し、正味、以下の反応が起こり、アセチルCoAを合成します。
ピルビン酸+CoA+NAD+ →アセチルCoA+CO2+NADH
ただ、この反応は5連続反応によって起こっていて、5つの補酵素が必要な反応です。必要な5補酵素とはチアミン二リン酸(TPP:ビタミンB1)、リポ酸(リポアミド)、補酵素A(CoA)、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)です。
具体的には以下のようになっています。

アセチルCoAからHMG-CoA(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA)の合成
上記反応で合成されたアセチルCoAは3分子でHMG-CoAを1分子合成します。

HMG-CoAからメバロン酸の合成
この反応でようやくHMG-CoA還元酵素(HMG-CoAレダクターゼ)が登場します。HMG-CoAはHMG-CoA還元酵素によりメバロン酸を合成します。スタチンはこの酵素を阻害することにより、この反応を阻害し、この一連の反応の最終合成物であるコレステロールの合成を阻害することになります。
HMG-CoAからメバロン酸の合成反応は下図です。

HMG-CoAからメバロン酸の合成
この反応でようやくHMG-CoA還元酵素(HMG-CoAレダクターゼ)が登場します。HMG-CoAはHMG-CoA還元酵素によりメバロン酸を合成します。スタチンはこの酵素を阻害することにより、この反応を阻害し、この一連の反応の最終合成物であるコレステロールの合成を阻害することになります。
HMG-CoAからメバロン酸の合成反応は下図です。

スタチン系薬剤はロスバスタチンカルシウムを例にすると、下図ピンクの背景の箇所がHMG-CoAと類似しているので、HMG-CoAレダクターゼ(HMG-CoA還元酵素)が誤ってスタチン系薬剤を取り込むことにより、上記反応を阻害します。

メバロン酸からスクアレンを経て、コレステロールの合成
メバロン酸からはいくつもの反応を経て、スクアレンが合成されます。その後、いくつかの反応でスクアレンが環化してコレステロールが合成されます。

副作用
副作用としては、肝障害、CK上昇、筋脱力などの症状と、非常にまれな頻度ですが、横紋筋融解症が知られています。これらの副作用や様々な理由によりスタチンの継続服用が困難な状態のことをスタチン不耐(statin intolerance)といいます。スタチン不耐も①どのスタチンの投薬も困難な「完全不耐」と②特定のスタチンのある用量のみ困難な「部分不耐」があります。
ステム
HMG-CoA還元酵素阻害剤は何度もでてきている「スタチン:statin」がステムになります。●●●●●スタチンとなっていたら、HMG-CoA還元酵素阻害剤と判断できます。日本で発売されている薬には、アトルバスタチン、シンバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンなどがあります。
構造式
各成分の構造式は次のようになっています(英名の太字+下線の部分はステムの部分です)。
アトルバスタチンカルシウム水和物 Atorvastatin Calcium Hydrate (先発医薬品名:リピトール) | |
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シンバスタチン Simvastatin (先発医薬品名:リポバス) | |
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ピタバスタチンカルシウム水和物 Pitavastatin Calcium Hydrate (先発医薬品名:リバロ) | |
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フルバスタチンナトリウム Fluvastatin Sodium (先発医薬品名:ローコール) | |
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プラバスタチンナトリウム Pravastatin Sodium (先発医薬品名:メバロチン) | |
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ロスバスタチンカルシウム Rosuvastatin Calcium (先発医薬品名:クレストール) | |
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参考資料
スタチン不耐に関する診療指針2018
酢酸の代謝~お酢を飲んだら体内でどんな働きをするのか|とば屋酢店
自然界の炭素固定を担うアセチル CoA 合成酵素の化学
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