抗体についての解説記事です。コロナ禍のこともあり、ニュースでもよく聞く単語になりました。ただ、抗体ってそもそも何なの?と聞かれて詳しく説明できなかったので、本記事を執筆しました。
そもそも抗体とは?
一言で表すのであれば、タンパク質です。そして、「タンパク質とは?」と聞かれるのであれば、答えは「アミノ酸がペプチド結合で繋がったもの」という答えになります。
タンパク質と聞くとお肉に含まれている栄養素と想像するのが一般的と思われますが、実はタンパク質にはたくさんの種類があり、生体内でそれぞれのタンパク質が色々な働きをしており、相互に関与して生命活動を維持しています。その中で抗体は生体防御に関する役割を担っています。
抗体の基本構造
抗体は基本的には下図のようなY字型をした模式図で示されます。

軽鎖(L鎖、Light Chain)と重鎖(H鎖:Heavy Chain)からなり、軽鎖は約25kDa、重鎖は約50kDaの質量があります。軽鎖と重鎖、重鎖同士はジスルフィド結合で繋がっています。
もうちょっと詳しく(定常領域と可変領域)
上図のようなY字型をしている抗体ですが、もう少し細分化され、定常領域(C領域)と可変領域(V領域)に分けられます。可変領域と定常領域は以下のように役割が異なります。
可変領域(V領域):抗原(ウイルスなど)と結合する部位
定常領域(C領域):免疫を担う細胞と結合する部位
文字の通り、可変領域は抗体により変化に富んだ領域になります。これは様々な抗原に対応する為と考えられます。また、定常領域は比較的変化の少ない領域になります。これらの領域は軽鎖と重鎖で更に細分化され、以下のように分けられます。LとVはそれぞれ、Light Chain、Heavy Chainに由来すると思えば、覚えやすいです。
C領域 | V領域 | |
軽鎖 | CL領域 | VL領域 |
重鎖 | CH領域 | VH領域 |
ここまでを模式図化すると以下のようになります。

Fc領域とFab領域
抗体は更に別の領域で分ける事ができます。パパイヤの果肉に含まれている「パパイン」というタンパク質消化酵素で消化すると、抗体はFc領域(エフシーリョウイキ)と呼ばれるY字の縦棒部分が1つとFab領域(エフエービーリョウイキ)と呼ばれるY字の斜め部分2つに切断されます。

Fabと呼ばれる理由ですが、「F」は「断片(Fragment)」、「ab」は「抗原に結合する(antigen binding)」を意味しています。Fcの「F」は上記と同じ意味で、「c」は「結晶化できる(crystalizable)」を意味しています。
抗体(免疫グロブリン)の種類
抗体はイムノグリブリン(免疫グロブリン、Ig)とも呼ばれ、主にIgA、IgD、IgE、IgG、IgMの5種類に分けられ、以下のような特徴があります。
種類 | 特徴 |
IgG | 血液中に最も多く含まれている抗体。様々な抗原(ウイルスや細菌など)に結合して、白血球の働きを助ける。 |
IgM | 細菌やウイルスに感染した時に一番初めに作られる抗体。IgMが作られた後にIgGが作られる。Y字型の抗体が5つ結合した形をしている。![]() |
IgA | 人の腸管や気道などの粘膜や初乳に多くあり、細菌やウイルスの感染予防に役立つ。血液中ではY字型だが、粘膜や初乳では抗体が二量体(ダイマー)の形をしている。![]() |
IgD | 体内の量は少なく、役割もよくわかっていない。 |
IgE | 抗体として最も少なく。喘息や花粉症などのアレルギーに関与している抗体。 |
変わった抗体(VHH抗体)
アルパカやラマなどのラクダ科の動物ではVHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)抗体と呼ばれる変わった抗体が存在しています。通常は重鎖と軽鎖からなる抗体ですが、Fab(VLとVHとCHの一部)の部分がごそっとVHHという重鎖のみになっています。
川崎高津診療所より
VHH抗体の特徴
VHH抗体はその分子量の小ささから大腸菌や酵母のような微生物でも容易に発現させることができます。また、熱やpH、変性材に対しても高い安定性を有しており、今後、様々な分野での応用が期待されています。
モノクローナル抗体
抗体医薬ではモノクローナル抗体という言葉がよくでてきます。色々調べていたのですが、国立がん研究センターの説明が分かりやすかったので、そのまま引用します。
体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物(抗原)から体を守るために「抗体」がつくられます。抗原にあるたくさんの目印(抗原決定基)の中から1種類(モノ)の目印とだけ結合する抗体を、人工的にクローン(クローナル)増殖させたものをモノクローナル抗体といいます。分子標的薬など、がん細胞の特定の抗原に結合する薬などに利用されています。
がん情報サービスより
ADC
抗体医薬ではよく聞かれる単語で、抗体薬物複合体の略になります。Antibody-drug conjugateの頭文字を取ったものです。抗体にリンカーと呼ばれるもので薬物をつないだ構造をしています。ADCは抗体の特異的に結合する能力を用いて、薬物を効果的に発揮させることができます。例えば、体内の特定の箇所(がん細胞など)までは抗体により運び、そこで薬物を効果的に効かせることができます。また、がん細胞以外では薬物の効果が発揮されなければ、副作用も少なくて済みます。
国立がん研究センターより
参考
・モノクローナル抗体(がん情報サービス:用語集)
・抗体薬物複合体(ADC)のがん組織中の薬物放出・分布を可視化した画期的な方法を確立:国立がん研究センタープレスリリース(2016年5月6日)
・アルパカが持つ不思議な抗体の魅力(生物工学 第96巻 第4号(2018))
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