光学異性体(鏡像異性体)とは、化学物質の構造に関する用語で、立体構造が互いに鏡に映したような関係、右手と左手の関係のような化合物同士の事を言います。右手と左手を見てもらえば分かるように、構成する物は同じですが、(右手と左手であれば、親指・人差し指、中指…など。化学物質の場合は構成する原子の数と種類が同じ)、どのように回転させても重なり合わない化合物(右手と左手もどのように回転させても重なり合わすことができないと思います)の事を言います。
光学異性体(鏡像異性体)を図で表すと
少し語弊があるので、もう少し詳説すると光学異性体(鏡像異性体)はAという構造を鏡に映した時に鏡に映ったBの構造である化合物の事を言います。図で表すと下図のようになります。

Aの光学異性体(鏡像異性体)はB、Bの光学異性体(鏡像異性体)はAという関係になります。光学異性体同士はその融点や密度、沸点などほとんどの物理的・化学的性質が同じという性質があります。
光学異性体を英語でいうと(読み方は?)
光学異性体は英語でenantiomerといいます。読み方はエナンチオマーで日本の通常の会話でもエナンチオマーと言ったりします。
不斉炭素とS体、R体
光学異性体は不斉炭素を基準にして、S体かR体に分けられます。不斉炭素とは、「4つの異なる置換基が結合した四面体型の炭素」の事で、下図だとピンク色の炭素の事です。また、4つの異なる置換基は下図だとR1、R2、R3、R4の事です。

S体とR体の見分け方(RS表記)
① 不斉炭素についている置換基に優先順位を付けます。優先順位の付け方は後で詳細に記述します。
ここでは優先順位を①R1>②R2>③R3>④R4とします。
② 優先順位が一番低い物(R4)を後ろにもってきます。(下図)

③ 優先順位1,2,3の順番が時計回り(右回り)か反時計回り(左回り)かを見ます。時計回りの場合、R体、反時計周りの場合、S体になります。
今回の例では右回りなのでR体になります。

優先順位が①R1>②R3>③R2>④R4の場合、反時計回りなのでS体になります(下図)。

優先順位の決め方
ルール1:不斉炭素に直接結合している原子の原子番号の大きいものが上位
例えば、R1がCl、R2がCH3、R3がOH、R4がHとします。
この場合、R1のCl(塩素)が原子番号17で優先順位1位、R3のO(酸素)が原子番号8で優先順位2位、R2のC(炭素)が原子番号6で優先順位3位、R4のH(水素)が原子番号1で優先順位4位となります。
ここまでを模式図に表すと以下のようになります。

次に、時計回りか反時計回りかを確認して、S体かR体か確認します。今回の場合は反時計回りになるのでS体になります。

ルール2:原子番号が同じ場合はその原子に結合している原子を比べ、原子番号が大きい方を上位とする
例えば、これまでのR1がCl、R2がCH2CH3、R3がCH3、R4がHの化合物があるとします。
この場合、ルール1に則って、Clが優先順位1位、Hが優先順位4位になります。CH2CH3とCH3が炭素で同じなので、ルール1だけでは優先順位を決められません。ここで、ルール2が発動します。
CH2CH3とCH3の不斉炭素に結合している赤字の炭素の比較では優先順位に差をつけられないので、赤字の炭素に結合しているCH2CH3(R2)とCH3(R3)の青字部分の原子を比べます。
比べるとR2の方は水素(原子番号1が)2つと炭素(原子番号6が)1つです。R3の方は水素(原子番号1が)3つです。その為、R2の方が優先順位は高く、優先順位2位に、R3は優先順位3位になります。
今回のパターンを図にすると

上図の通り今回の化合物はS体となります。
ルール2の注意点:二重結合や三重結合がある場合
不斉炭素に二重結語や三重結合の原子がある場合はどうなるのでしょうか?それは同じ原子が結合しているものとしてカウントします。下表に例を示します。
実際の置換基 | 結合しているとみなされる原子 |
CH3 | CとH、H、H |
C=CH2 | CとC、H、H |
C≡CH | CとC、C、H |
二重結合や三重結合がある場合は、右端列の「結合しているとみなされる原子」を元にルール2を適用して優先順位を決めます。
ラセミ体とは?
光学異性体(鏡像異性体)が1対1で混ざり合った化合物の事をラセミ体といいます。また、ラセミ体から片方の光学異性体のみを分離する(光学分割といいます)事もあります。これは医薬品に限って言えば、光学分割するのは大変であったり、戦略的に、開発当初はラセミ体や光学異性体の混合物で開発される事があります。その後、S体(の場合が多い)の方が薬効がある事が多く、研究を進め、S体のみを光学分割して新たな医薬品として開発・販売される事が多いです。
エナンチオマー過剰率(ee)
光学異性体がある物質は100%の純度の光学異性体で構成されている化合物か、それとも光学異性体同士がぴったり1対1のラセミ体か?というと、そうでもありません。上記、R体とS体の例で言えば、R体が70%、S体が30%のような状態もあります。
そこで、どれくらいどちらの光学異性体が過剰にあるのか?という指標を示す為にエナンチオマー過剰率という指標を使います。ここまで鏡像異性体の事を英語のエナンチオマーと言わずに進めてきましたが、このエナンチオマー過剰率については「鏡像体過剰率」とあまり聞かないので、エナンチオマー過剰率として進めさせて頂きます。
エナンチオマー過剰率を英語で
エナンチオマー過剰率は英語でenantiomer excessといい、略してeeまたはe.e.と言われる事が多いです。
エナンチオマー過剰率の計算方法
エナンチオマー過剰率は以下のような計算方法で算出できます。
エナンチオマー過剰率(%ee)=主となるエナンチオマーの割合(%)-副となるエナンチオマーの割合(%)
※単位は%ではなく、eeをつけて%eeと表されます。
例えば、ラセミ体(鏡像異性体同士が1対1(50%:50%)の場合はどちらかが過剰な分が0ですので、エナンチオマー過剰率は50%-50%=0%ee となります。
同様にS体が80%、R体が20%の混合物のエナンチオマー過剰率は75%(S体)-25%(R体)=50%eeとなります。
図で表すと下図のようになります。

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