アメリカの規制当局(FDA)で承認された医薬品の約30~40%はGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor
:GPCR)ファミリーに属するものを標的にしています。
GPCRは細胞膜を貫通(7回膜貫通ヘリックス)していて、下図のような構造をしています。神経伝達物質やホルモン、光などの細胞外シグナルを受け取ると、細胞内のGタンパク質などを活性化することでシグナルを伝達します。

Gタンパク質共役型受容体の構造解析に向けた戦略 ~ヒスタミンH1受容体を例に~|白石充典 薬学雑誌(2013)より
Gタンパク質の構造とサブユニット
Gタンパク質共役受容体に共役しているGタンパク質はα、β、γの3つのサブユニットの複合体で、不活性状態の時はG
タンパク質は三量体Gαβγとして存在します。
セロトニン受容体(5-HT3以外)などのGタンパク質共役受容体にリガンドが結合し活性化するとGαはGβγから解離し活性型になります。解離したGαとGβγはそれぞれの効果器にシグナルを伝えます。

Gタンパク質共役型受容体の活性化機構|大嶋菜月ら 明治大学農学部研究報告(2014)より
Gαのシグナル経路
三量体であるGタンパク質(Gαβγ)のGαの相同性、機能により4つのグループ(Gαs、Gαi/o、Gαq/11、Gα12/13)に分かれます。さらに、この中でもシグナル伝達経路を活性化する刺激性Gαタンパク質とシグナル伝達経路を抑制活性させる抑制性Gαタンパク質に分かれます。
Gsファミリー
Gsファミリーは刺激性Gタンパク質であり、GαsとGαolfからなります。共に細胞内でアデニル酸シクラーゼを活性化させcAMP(cyclic adenosine monophosphate:サイクリックAMP、環状アデノシン一リン酸)の濃度を上昇させます。
Gαsは多くの組織に分布していますが、Gαolfは嗅細胞に特異的に発現しています。
Gi/oファミリー
Gi/oファミリーは抑制性Gタンパク質であり、サブタイプにはGαi、Gαo、Gαt、Gαgust、Gαzがあります。
Gαi及びGαoのサブグループ
GαiはさらにGαi1、Gαi2、Gαi3のサブタイプがあり、いずれもアデニル酸シクラーゼの活性を抑制します。また、GαoはGαo1、Gαo2のサブタイプがあります。脳、神経系に局在しており、Gαiと同様にアデニル酸シクラーゼの抑制活性を示すことがわかっていますが、機能はよくわかっていません。
Gαtのサブグループ
GαtはさらにGαt1、Gαt2のサブタイプがあります。網膜に発現し、ロドプシン、オプシンにより活性化され、cGMPホスホジエステラーゼを活性化し、cGMP加水分解活性を向上させ、光の情報伝達に関わっています。
Gαgustのサブグループ
Gαgustは味細胞で発現しており、cGMPホスホジエステラーゼを活性化、cGMP加水分解活性を向上させ、味覚の情報伝達に関わっています。Gαgustが発現している味細胞では、苦味、甘味、旨味の刺激を認識するとされています。Gαgustの遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、苦味と甘味の感受性が著しく低下すると報告されています。
Gαzのサブグループ
GαzはGαiと機能は全く同じです。ただ、C末端側から4番目にある百日咳毒素によるADPリボシル化されるシステイン残基がなく、百日咳毒素に対する感受性が異なります。
Gαq/11ファミリー
Gαq/11は抑制性Gタンパク質であり、PLC-β(ホスホリパーゼC-β)を活性化することによりPIP2(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸)をDAG(ジアシルグリセロール)とIP3(イノシトール三リン酸)に加水分解します。
IP3はカルシウムチャネルのIP3受容体に結合し細胞質のカルシウム濃度上昇を引き起こします。
Gα12/13ファミリー
Gα12/13は抑制性Gタンパク質で、ほとんどの細胞で発現しており、様々な細胞応答やシグナル伝達を行います。また、細胞遊走や細胞骨格にも影響を与えています。
細胞運動・接着・細胞質分裂には多くの調節分子が関わっていますが、Gα12/13が活性化させる低分子量GTP結合タンパク質Rhoも関わっています。
この役割のため、Gα12/13のシグナル伝達経路は進行癌の転移や浸潤、癌の血管新生でも重要な役割を担っていることがわかっており、RHOファミリーのGTPアーゼ群はRHOキナーゼ(ROCK)ファミリーは癌で過剰発現していることが多いです。
Gα12/13ファミリーは役割が多いので、まとめた画像を以下に示します。

まとめ
ここまでのGタンパク質共役受容体をまとめると以下のようになります。
ファミリー | 名称 | 効 果 | 特徴 | |
---|---|---|---|---|
刺 激 性 | Gs ファミリー | Gαs | 細胞内でアデニル酸シクラーゼを活性化させcAMP濃度上昇 | 多くの組織に発現 |
Gαolf | 嗅細胞に特異的に発現 | |||
抑 制 性 | Gi/o ファミリー | Gαi | アデニル酸シクラーゼの活性を抑制 | |
Gαo | ||||
Gαt | ホスホジエステラーゼを活性化し、cGMP加水分解活性を向上させる | 網膜に発現 | ||
Gαgust | 味細胞で発現 | |||
Gαz | アデニル酸シクラーゼの活性を抑制 | |||
Gαq/11 ファミリー | Gαq/11 | PLC-βを活性化しPIP2をDAGとIP3に加水分解 | ||
Gα12/13 ファミリー | Gα12/13 | RhoAなどを介し、細胞遊走や細胞骨格に影響を与える | 腫瘍にも深く関与 |
参考
・Gタンパク質共役型受容体の構造解析に向けた戦略 ~ヒスタミンH1受容体を例に~|白石充典 薬学雑誌(2013)
・GPCRシグナル伝達の複雑な話|Nature ダイジェストより
・細胞における匂い情報の受容機構,情報収縮と匂い識別|倉橋隆(日本バーチャルリアリティ学会誌:2004.09)
・Gα12 and Gα13: Versatility in Physiology and Pathology | PaiPai.G et al. Frontiers in Cell and Developmental Biology(14 Feb.2022)より
コメント