PCSK9阻害薬が脂質異常症の薬として日本国内で承認されています。PCSK9はサブチリシンプロテアーゼファミリーに属していますが、他にはPCSK1、PCSK2、PCSK4、PCSK7、Furinなどがあります。それぞれでPCSK9とは異なる作用があることがわかっていますので、本記事ではそれらを取り上げています。
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サブチリシンプロテアーゼファミリーとは?
このファミリーに属するタンパク質は活性がないタンパク質前駆体を活性のあるタンパク質に変換する前駆タンパク質転換酵素です。それではファミリーに属する1つずつ酵素(タンパク質)を見ていきましょう。
Furinとは?
Furinは「フーリン」と読みます。全ての哺乳動物細胞に発現しており、ホルモン、酵素、インスリン様成長因子受容体、血清タンパク質、細菌由来の毒素、ウイルスのエンベロープタンパク質等の様々な前駆分子を活性のあるタンパク質に転換します。
PCSK1、PCSK2とは?
PCSK1、PCSK2の読み方はそれぞれ「ぴーしーえすけーわん」、「ぴーしーえすけーつー」と読みます。この酵素(タンパク質)はエネルギー代謝を調節するホルモンを不活性化型へ変換する酵素です。この酵素(タンパク質)を発現する遺伝子(PCSK1、PCSK2遺伝子)に突然変異があると肥満の一種を引き起こすことが判明しています。
プログルカゴンというタンパク質を膵α細胞ではPCSK2が変換し、グルカゴンにします。一方で、腸管内分泌細胞(L細胞)ではPCSK2が変換し、GLP-1、GLP-2、グリセンチン、オキシントモジュリンになります。(最近では、代謝ストレス状態や運動などでα細胞からGLP-1産生、腸管からもグルカゴンが産生される可能性が報告されています)
グルカゴンは血糖値を上げるホルモンとして、GLP-1は血糖値を下げるホルモンとして知られています。これら相反する作用をもつホルモン同士が血糖値の調整に関わっており、糖尿病にも深く関わっています。また、グルカゴンは肝臓や脂肪細胞で脂肪分解などのエネルギー消費を上昇させる作用をもつホルモンで、抗肥満ホルモンともいわれています。
▼関連記事:GLP-1とは?
PCSK4とは?
PCSK4はpro-IGFⅡと言われるタンパク質を変換してIGF2(Insulin-like growth factor 2:インスリン成長因子II)にします。IGF2はその名の通り成長因子です。成人ではIGF1が主要な成長因子とされ、IGF2は胎児での主要な成長因子とされています。
PCSK7とは?
PCSK7はヒトトランスフェリン受容体Ⅰ(human Transferrin receptor 1:hTfR1)という膜貫通タンパクをシェディングする転換酵素として知られています。トランスフェリン受容体Ⅰは主に赤血球での鉄の取り込みに寄与しています。シェディングとは膜貫通タンパク質の一部を酵素などで切り取ることをいいます(下図)。
引用:立命館大学生命科学部生命医科学科タンパク質修飾生物学研究室
PCSK7によりシェディングされたhTfR1は環状型の可溶性タンパク質になることはわかっていますが、その役割は現在のところよくわかっていません。
参考情報
・NEW ENGLAND Biolabs|Furin
・新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定|東京大学医科学研究所:プレスリリース(2020年3月18日)
・The mutation that helps Delta spread like wildfire|2021年8月20日
・一般的なタイプの肥満とそのリスクに関与する酵素|Nature Genetics(2008年7月7日)
・科研 2022 年度 実績報告書|藤田 征弘
・Imbalanced Expression of IGF2 and PCSK4 Is Associated With Overproduction of Big
・IGF2 in SFT With NICTH: APilotStudy| J Clin Endocrinol Metab, 2018 , 103(7):2728–2734
・Implication of the Proprotein Convertases in Iron Homeostasis: Proprotein Convertase 7 Sheds Human Transferrin Receptor 1 and Furin Activates Hepcidin
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