セロトニン受容体(Serotonin receptor)はセロトニンのことをIUPAC名では5-ヒドロキシトリプタミン(5-hydroxytryptamine:5-HT)と呼ぶので、5-HT receptorとも呼びます。
セロトニン受容体のサブタイプは?
国際基礎臨床薬理学連合(IUPHAR)という国際的な組織により体系化されています。構造によって7つ(5-HT1~5HT7)に分けられています。いくつかは明らかな生理学的役割が判明していないため、5-ht1Eのように小文字の名称を割り当てて区別しています。
セロトニン受容体とGタンパク質
セロトニン受容体のほとんどはGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)です。細胞の外側の表面にある受容体部分にセロトニンが結合すると、受容体であるタンパク質(細胞外に受容体部分はありますが細胞膜を貫通するように存在)の形状が少し変化して、細胞内にあるGタンパク質(G protein)に信号が伝えられます。受容体の種類によって、細胞に興奮を引き起こす場合もあれば、抑制性の反応を引き起こす場合もあります。
GPCRは様々な種類がありますが、
アメリカの規制当局(FDA)で承認された医薬品の約30%~40%はGPCRに作用すると言われています。GPCRについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
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セロトニン受容体サブタイプとGタンパク質との関係について見ていきます。
5-HT1A受容体
5-HT1A受容体はセロトニン受容体の中で最も広く発現しており、不安障害に最も関連性が深いと考えられています。5-HT1A
受容体はGタンパク質共役受容体であり、主なシグナル経路はGi/oを介したcAMP濃度の低下です。
グルタミン酸作動性の興奮性シナプス伝達、GABA作動性の抑制シナプス伝達を共に抑制し、自己受容体としてセロトニン神経の活動に負のフィードバックをかけます(抑制性自己受容体)。
5-HT1B受容体
5-HT1B受容体も5-HT1サブファミリーの1つなので、5-HT1A受容体と同様にGタンパク質共役受容体であり、主なシグナル経路はGi/oを介したcAMP濃度の低下です。
5-HT1B受容体も抑制性自己受容体としてセロトニンの放出を抑制するほか、グルタミン酸、GABA、ドーパミン、アセチルコリンなどの放出を抑制します
片頭痛治療薬であるトリプタン系の薬剤は5-HT1B受容体と後述する5-HT1D受容体のアゴニストです。5-HT1B受容体は血管平滑筋に存在し、活性化によって血管収縮を引き起こします。
片頭痛の発生機序は明らかになっておりませんが、何らかの刺激により頭蓋血管周囲の三叉神経が活性化され、三叉神経からニューロペプチドが遊離、頭蓋血管の拡張や血管透過性亢進により、血管周囲が炎症を起こし痛みを発生すると考えられています。
5-HT1B受容体の活性化により血管収縮を起こし、頭痛の改善に寄与すると考えられています。
5-HT1D受容体
前述のトリプタン系薬剤は本受容体のアゴニストでもあります。トリプタン系薬剤は一般的に5-HT1D受容体に高い親和性を示します。5-HT1D受容体は三叉神経に発現しており、活性化によりニューロペプチドの遊離が抑制され、頭蓋血管の拡張や血管透過性亢進抑制により、頭痛改善に寄与すると考えられています。
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5-ht1e受容体
5-HT1サブファミリーであり、シグナル伝達経路はGi/oに共役しcAMP濃度の低下させます。偏桃体やグリア細胞などで発現していることはわかっていますが、生理学的機能は今のところわかっていません。
5-HT1F受容体
5-ht1e受容体と同じく、シグナル伝達経路はGi/oに共役しcAMP濃度の低下させます。三叉神経に発現しており、片頭痛と関連があります。トリプタン系薬剤の中には5-HT1F受容体に比較的高い親和性を示すものもあります。
片頭痛治療薬のレイボー錠(ラスミジタンコハク酸塩)は中枢及び末梢の三叉神経細胞に発現する5-HT1F受容体に選択的に結合することにより、血管を収縮させずに三叉神経からのニューロペプチドの放出を抑制することで片頭痛の症状軽減が機体されています。
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5-HT2A受容体
中枢神経系に広く分布しています。シグナル伝達経路はGq/11に共役し、ホスホリパーゼC(PLC)を活性化し、イノシトール1,4,5-三リン酸 (IP3)とジアシルグリセロール(DAG)を産生します。
気分障害や不安障害にも関与していると考えられており、5-HT2A受容体に拮抗作用を示すSDA(serotonin-dopamine antagonist)は統合失調症の陰性症状を改善する非定型抗精神病薬として用いられています。
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5-HT2B受容体
5-HT2サブファミリーであり、シグナル伝達経路はGq/11に共役しています。血管や胃腸管平滑筋、血管内皮などに発現しており、平滑筋収縮やNO依存性血管弛緩の生理学的機能があると考えられています。
また、5-HT2B受容体のアンタゴニストは過敏性腸症候群(IBS)治療の可能性があると考えられています。
5-HT2C受容体
5-HT2C受容体もシグナル伝達経路はGq/11に共役しています。5-HT2C受容体は肥満と関連があると考えられており、5-HT2C受容体欠損マウスでは過食と肥満が生じる結果がでています。
5-HT3受容体
5-HT受容体の中で5-HT3受容体のみイオンチャネル内蔵型受容体になっています。Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)ではありません。受容体タンパク質がイオンチャネルを形成し、セロトニンの結合によりNa
+やK+などの一価の陽イオンが膜を通過します。これにより、神経細胞が脱分極し、神経伝達物質であるアセチルコリンが遊離され、各種作用が発現します。
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5-HT3受容体は消化管に分布する求心性迷走神経の末端に多く分布しており、求心性迷走神経上の5-HT3受容体が活性化されると吐き気や嘔吐を引き起こします。5-HT3受容体のアンタゴニストは制吐薬として、がん化学療法における吐き気や嘔吐の軽減に用いられます。
5-HT4受容体
シグナル伝達経路はGsに共役しcAMP濃度を上昇させます。海馬、扁桃体においてシナプス伝達の長期増強を促進します。5-HT4受容体のアンタゴニスト投与により記憶課題改善の結果が見られ、記憶、学習機能に関与していると考えられています。
また、消化器系においても発現しており、腸管の運動促進、胃および腸の収縮を調節して消化吸収を助けます。5-HT4
受容体のアゴニスト投与により、5-HT4受容体を刺激すると平滑筋の収縮を促進するアセチルコリン遊離の増大を介して消化管運動促進作用・胃排出促進作用を示します。
5-HT5A受容体、5-ht5b受容体
シグナル伝達経路はGi/oに共役しcAMP濃度を上昇させます。ラット、マウスでは5-HT5A受容体、5-ht5B受容体の2個のサブタイプが存在しますが、ヒトでは5-ht5B受容体の遺伝子コード配列が終止コドンによって中断されており、5-HT5A受容体のみが発現しています。
現時点ではどのような役割をもっているかは、ほとんどわかっていません。非提携抗精神病薬がin vitroで 5-HT5A受容体に結合すること実験結果は得られています。
5-HT6受容体
シグナル伝達経路はGsに共役しcAMP濃度を上昇させます。アルツハイマー型認知症の治療薬のターゲットにされたこともありましたが、有意差を示せませんでした。抗精神病薬との高い親和性を示すこともあり、中枢性ニューロン調節に関わっているのでは、と考えられています。
また、5-HT6受容体のアンタゴニスト投与による、空間学習課題などのテスト結果改善の実験結果もあります。
5-HT7受容体
シグナル伝達経路はGsに共役しcAMP濃度を上昇させます。5-HT7受容体は、哺乳類の概日リズムの調節に関与しており、概日リズムの破壊は、うつ病や睡眠障害交代勤務症候群および時差ぼけを含む、多くのCNS障害に関係していることがわかっています。さらに、5-HT7受容体欠損マウスではREM睡眠が抑制される 実験結果もあります。
また、5-HT7受容体は、脳血管の平滑筋弛緩を介して、片頭痛改善の可能性がある受容体です。
参考
・5-Hydroxytryptamine receptors|IUPHAR
・不安障害とセロトニン受容体|Machiko Matsumoto et al. 日薬薬理誌(2000)
・モサプリドクエン酸塩水和物|厚生労働省
・非定型抗精神病薬はin vitroで5-HT5A受容体へ結合する|浦江隆次 et al.
・5-HT受容体アンタゴニスト|公表特許公報
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