S-RIMはSerotonin Reuptake Inhibitor and Moduator(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤)の略になります。読み方は「えすりむ」と読みます。日本では2019年に発売された新しい抗うつ薬になります。
現在のところボルチオキセチン臭化水素酸塩(先発医薬品名:トリンテリックス錠)のみが該当する医薬品になります。
S-RIMの作用機序
S-RIMはセロトニンの再取り込みを阻害する作用のみならず、セロトニン受容体の調節作用を有する、これまでにない薬剤となります。
セロトニン5-HT3受容体、5-HT7及び5-HT1D受容体は遮断しますが、セロトニン5-HT1Bには部分的に作用、5-HT1Aに作用します。また、セロトニントランスポーターには阻害作用を示します。複数のセロトニン受容体への作用とセロトニントランスポーター阻害作用により、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、ヒスタミンの遊離を調節します。
色々とセロトニン受容体がでてきましたが、現在ヒトで認められているセロトニン受容体の種類と特徴を以下の記事でまとめました。ご参照ください。
▼関連記事:セロトニン受容体の種類は11種類?14種類?それぞれのサブタイプごとの特徴とは
SSRIとSNRIのセロトニントランスポーター占有率を臨床PETで測定した研究より、セロトニントランスポーター阻害作用による抗うつ作用は、80%の占有率が必要と考えられております。
ただ、ボルチオキセチンの第Ⅲ相試験(抗うつ効果を示した10mg投与群)では約63%のセロトニントランスポーター受容体占有率でした。このことより、ボルチオキセチンはセロトニントランスポーター阻害作用に加え、5-HT3受容体アンタゴニスト作用と5-HT1A受容体アゴニスト作用が協調することで抗うつ作用を発揮すると考えられています。
5-HT3受容体アンタゴニストと5-HT1A受容体アゴニストの作用
ボルチオキセチンが影響を及ぼすセロトニン受容体ですが、各受容体へ影響を及ぼすとどのような反応があるのでしょうか。いくつか論文で公表されています。5-HT3受容体アンタゴニストに作用する薬剤では抗不安様作用(ラット)及び認知機能改善作用(老齢サル)、5-HT1A受容体アゴニストである薬剤がうつ病患者におけるSSRI服用時の性機能障害を抑制するという論文がそれぞれ公表されています。
5-HT3受容体アンタゴニストと5-
HT1A受容体アゴニストの作用
ボルチオキセチンが影響を及ぼすセロトニン受容体ですが、各受容体へ影響を及ぼすとどのような反応があるのでしょうか。いくつか論文で公表されています。
5-HT3受容体アンタゴニストに作用する薬剤では抗不安様作用(ラット)及び認知機能改善作用(老齢サル)、5-HT1A受容体アゴニストである薬剤がうつ病患者におけるSSRI服用時の性機能障害を抑制するという論文がそれぞれ公表されています。
S-RIMの副作用
ボルチオキセチン臭化水素酸塩の副作用は悪心、傾眠、頭痛などが起こりやすいです。また、重大な副作用としてセロトニン症候群、痙攣、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が現れる事があります。
これらの一部はボルチオキセチンの作用から考えられることができます。
セロトニン受容体及びセロトニントランスポーターへの薬理作用による有害事象
起こりうる有害事象としては、消化器症状、中枢神経系、性機能障害、出血などが考えられます。また、セロトニントランスポーター阻害作用を有するSSRIの副作用では、機序が不明ながら抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が報告されています。
そして、機序が少し解明されているものでは、セロトニントランスポーター阻害作用を有するSSRIでは脳内セロトニン濃度の異常による痙攣が報告されています。
5-HT3受容体アンタゴニストと5-HT1A受容体アゴニストの作用による有害事象
脳内セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの遊離が促進される事に伴い、中枢神経系、性機能障害及び出血などが考えられます。
セロトニン症候群とは?
抗うつ薬などのセロトニンに関する作用をもつ薬の服用時に現れる副作用で、服薬後数時間以内に症状が現れることが多いです。また服薬の中止で通常24時間以内に消失します。以下のような副作用があります。
副作用 | |
精神症状 | 不安、混乱、いらいら、興奮、動き回るなど |
神経・筋症状 | 手足が勝手にぴくぴく動く、震える、体の硬直など |
自律神経症状 | 発汗、発熱、下痢、脈拍上昇など |
ごくまれに40℃以上の高熱が続き、横紋筋融解症、腎不全などの重篤な症状により命の危険にさらされることもあります。
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)とは?
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)は,低ナトリウム血症にもかかわらず,抗利尿ホルモンであるバソプレシン(AVP)の分泌が抑制されないため,腎尿細管での水の再吸収が亢進して水利尿不全に伴う低ナトリウム血症を呈する状態です。
出血とセロトニン
セロトニンは血小板凝集に関与しており、セロトニン再取り込み阻害作用を介して出血傾向を示す可能性が示唆されています。
ステム
ステムはS-RIMを示すわけではありませんが、フルオキセチン系抗うつ薬を示す-oxetineが該当しています。
フルオキセチンとは?
フルオキセチンは化合物の名前で以下のような構造をしています。
フルオキセチン塩酸塩 Fluoxetine Hydrochloride (先発医薬品名:Prozac(※:日本未承認薬)) |
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構造式
ボルチオキセチン臭化水素酸塩の構造式は次のようになっています(英名の太字+下線の部分はステムの部分です)。
ボルチオキセチン臭化水素酸塩 Vortioxetine Hydrobromide (先発医薬品名:トリンテックス) |
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参考
・トリンテックス錠|インタビューフォーム
・トリンテリックス錠|審査報告書
・NIH National Library of Medicine
・セロトニン症候群|PMDA HP
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