パーキンソン病とは、脳に異常が生じ、体の動きに障害があらわれる進行性の病気です。神経性疾患の1つでアルツハイマー病について頻度の高い疾患と言われています。50歳以上で発症する事が多いです。40歳以下でもまれに起こることもあり、若年性パーキンソン病と呼んでいます。
パーキンソン病の症状とは
体の動きの障害の具体的な症状として、①動作がゆっくり、少ない、小さい。②手足が小刻みに震える(振戦)、③他人が腕や足など動かそうとすると関節に抵抗を感じる(筋固縮、筋強剛)。④バランスをとりにくく、ころびやすい(姿勢保持障害)などがあります。
パーキンソン病の原因とは
脳の中脳と呼ばれる個所の黒質ドパミン神経細胞が減少して起こります。ドパミン神経が減ると脳内のドパミンが不足し、アセチルコリンが相対的に増加する事により、ふるえが起こりやすくなり、体が動きにくくなります。
ドパミン神経細胞が減少する理由は詳しく分かっていません。現在有力な説としては、ドパミン神経細胞の中にアルファ-シヌクレインというタンパク質が凝集して蓄積する事により、ドパミン神経細胞が減少すると考えられています。
治療方法
薬物治療が基本となっています。ドパミン神経細胞が減少するとドパミンが減少する為、薬を服用する事により、ドパミンを補充します。ただ、ドパミン自体を飲んでも脳へは移行しないため、ドパミン前駆体のL-ドパ(レボドパ)を服用します。
薬の種類は?
治療に使われる薬の種類としては、レボドパ(+ドパ脱炭酸酵素阻害薬)、②ドパミン受容体作動薬、③末梢COMT阻害薬、④抗コリン薬、⑤アマンタジンなどがあります。
レボドパ(+ドパ脱炭酸酵素阻害薬)
レボドパはL-ドパとも言われ、ドパミンの前駆体になります。腸から吸収されたあと脳内に移行し、ドパミン神経細胞に取り込まれてドパミンとなります。またレボドパが腸や肝臓、血管内でドパミンに代謝されるのを防ぐため、ドパ脱炭酸酵素阻害薬を一緒に服用する事もあります。
ドパミン受容体作動薬
レボドパの副作用を克服するために開発された薬です。長く飲み続けても副作用はでにくいですが、レボドパより効果が現れるまで時間がかかるというデメリットがあります。
末梢COMT阻害薬
COMTとはcatechol-O-methyltransferaseの略で、レボドパ、ドパミン、アドレナリン等のカテコール核をもつ物質を代謝する酵素です。上記の通り、レボドパはドパ脱炭酸酵素によりドパミンへの代謝が行われます。
その他にCOMTにより3-OMD(3-O–methyldopa)への代謝も行われます。COMT阻害剤はCOMTを阻害し、レボドパの3-OMDへの代謝を抑制します。
レボドパが3-OMDへ代謝されるとレボドパの総量が減ってしまうので、薬の効果を減らしてしまう事は想像できると思います。また、レボドパが3-OMDへ代謝されると、もう1つ弊害が生じます。
それはレボドパが脳内へ移行する際に邪魔するという事です。どういうことかというと、脳はとても重要な臓器なので他の臓器とは異なり、血液脳関門というバリア機構があります。これにより脳以外にある物質が血液にのって脳内へ移行しようとしても、選別されて脳内へ移行します。
レボドパは血液脳関門を通過することができる物質です。ただ通過する際に素通りできるわけでなく、大型中性トランスポーターという輸送してくれる働きをするタンパク質を介して通過できます。
レボドパと3-OMDは同じ大型中性トランスポーターを介して通過するのですが、その大型トランスポーターの数は限られているので、競合して脳内へ移行できるレボドパの数が減ってしまいます。これが3-OMDによる弊害の2つ目の理由です。
COMT阻害剤はCOMTを阻害し、レボドパの3-OMDへの代謝を抑制します。
▼関連記事:レボドパ、カルビドパ、エンタカポンとは?作用機序や体内での移行、副作用
抗コリン薬
アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する薬の事です。抗コリン作動薬とも呼ばれています。パーキンソン病の治療薬として最初に使われるようになった薬です。
アマンタジン塩酸塩
元々はA型インフルエンザの治療薬として使われていた薬です。ドパミンの放出促進作用・再取り込み抑制作用・合成促進作用が認められており、パーキンソン病に効果を示すと考えられています。
レボドパ賦活薬(ゾニサミド)
ゾニサミドはてんかんの治療薬ですが、用量を変えて服用する事で、レボドパと併用してパーキンソン病のウェアリングオフを改善します。
アデノシンA2A受容体拮抗薬(イストラデフィリン)
イストラデフィリンはレボドパと併用することでウェアリングオフを改善します。
モノアミン酸化酵素B阻害薬
モノアミン酸化酵素BはMAO-B(Monoamine oxidase B)と略される事もあります。MAO-Bはドパミンやセロトニンを分解する働きをする酵素ですので、その働きを阻害する事により、脳内のドパミン濃度を上昇させることができます。
ウェアリングオフ現象とジスキネジア
パーキンソン病の症状初期では効いていたレボドパの用量でも何年も服用していると薬の効いている時間が短くなり、薬を飲む前にパーキンソン病の症状がでてくる時間帯が出てくることがあります。この現象をウェアリングオフ現象といいます。
また、何年も服用していると同じ用量なのに、薬が効きすぎて(薬の血中濃度が治療域を超えて、副作用が強くなる)ジスキネジアという症状が出る事もあります。
ジスキネジアは意思に反して手足などが勝手に動く症状の事を言います。患者さんにより日常生活に影響があるもの、気にならないものなど程度に差があります。
図で示すと以下のようになります。

薬剤性パーキンソニズム
薬剤性パーキンソニズムとは、医薬品の副作用として起こるパーキンソン病に似た症状のことです。医薬品には、ドパミン受容体をブロックし、ドパミンの作用を減弱するものがあります。
これによりドパミン神経細胞が減った状態と似た状態になるので、パーキンソン病に似た症状を起こすと考えられています。
薬剤性パーキンソニズムを起こす医薬品の中でも、比較的頻度の高いものとしては、一部の抗精神病薬、胃腸薬と言われています。いずれも一回服用しただけで症状がでるのではなく、継続して内服することにより出現します。
薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病の違い
上記の通り、医薬品によって引き起こされるかどうかという違いはもちろんありますが、症状の出方にも違いがあります。
パーキンソン病の症状では右側、もしくは左側の上下肢のように、片側に発症します。また進行はゆるやかで月単位で進行します。一方、薬剤性パーキンソニズムの症状は、左右同等に発症します。
また、症状にも少し違いがあります。パーキンソン病の症状の1つに振戦(ふるえ)というものがあります。この症状は自分の意識とは無関係に筋肉が収縮と弛緩を一定のリズムで繰り返すことによって起こる体の震えのことです。
パーキンソン病での振戦は手足を動かさない時に現れ、安静時振戦と言います。レボドパなどを服用すると症状の緩和が認められることも多いです。一方で、薬剤性パーキンソニズムの症状では、同様に振戦が出現しますが、手足を動かしたときに現れるという違いがあります。
このような振戦は動作時振戦と呼ばれています。また、薬剤性パーキンソニズムはレボドパを内服しても目立った効果が得られないか、限定的な効果しか得られないという違いがあります。
現在のところ、パーキンソン病と薬剤性パーキンソニズムの症状には以下のような違いがあると言われています。
薬剤性パーキンソニズム | パーキンソン病 | |
症状の出現の仕方 | 両側性 | 片側性(右側or左側) |
---|---|---|
経過 | 原因となる医薬品の中止で改善 | 緩徐進行性 |
振戦 | 動作時に出現 | 安静時に出現 |
特徴的な所見 | 口唇ジスキネジアや アカシジアの合併がある | 口唇ジスキネジアと アカシジアの合併はない |
抗パーキンソン薬への反応 | なし | あり |
DAT-SPECT | 正常 | 低下 |
薬剤性パーキンソニズムを発症する可能性のある医薬品
薬剤性パーキンソニズムを発症する可能性がある医薬品は上記の通り、一部の抗精神病薬、胃腸薬が多いですが、具体的には以下のようなものになります。
分類 | 薬理学的機序 | 一般名 |
---|---|---|
第一世代 抗精神病薬 | ドパミン受容体D2 アンタゴニスト | ハロペリドール |
フルフェナジン | ||
ペルフェナジン | ||
クロルプロマジン | ||
第二世代 抗精神病薬 | ドパミン受容体D2 アンタゴニスト | クロザピン |
オランザピン | ||
クエチアピン | ||
リスペリドン | ||
スルピリド | ||
ドパミン受容体D2 部分アゴニスト | アリピプラゾール | |
制吐剤 | ドパミン受容体D2 アンタゴニスト | メトクロプラミド |
カルシウムチャネル 拮抗薬(※) | ドパミン受容体D2 アンタゴニスト | |
ドパミン低下薬剤 | レセルピン | |
その他 | リチウム | |
バルプロ酸 | ||
SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) |
(※)以前、脳代謝改善薬としてシンナリジンという薬が薬剤性パーキンソニズムが高確率で起こしておりました。現在は日本、欧米でも発売中止となっています。薬剤の骨格がフェノチアジンと類似し、ドパミン受容体遮断作用を持つことが原因です。
現在、販売されているカルシウム拮抗薬で、薬剤性パーキンソニズムを起こすことはほとんどないと言われています。
治療方法
薬剤性パーキンソニズムのもっとも基本的な対応方法は、原因として疑われる薬の中止です。内服の中止や減量、代替できる医薬品への変更により症状は改善すると言われています。患者さんやそのご家族の判断での内服の中止や減量は危険ですので、必ず医師の指示に従ってください。
また、中止や減量をしたくても重度の精神疾患などがあり、その治療の為に内服している医薬品が原因で薬剤性パーキンソニズムが起こっている場合、中止や減量が難しい場合もあります。その場合、薬剤性パーキンソニズムが起こりにくい薬に変更するなどの対応をすることもあります。
抗精神病薬の中止、減量、変更などにより精神症状を悪化させるリスクもあるので、慎重に経過を見ながら投薬の継続などを医師が判断します。
参考
・パーキンソン病|難病情報センター
・コムタン錠|CTD2.6.1
・パーキンソン病治療薬開発の最前線|神田知之ら、日薬理誌(131):2008
・薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病との違い|厚生労働省
・重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬剤性パーキソニズム)|厚生労働省
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