抗不安薬は不安障害の治療に用いられます。ここではベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系を対象として取り上げています。現在では、不安障害ガイドラインであるWFSBP(世界生物学的精神医学会)ガイドラインにて、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が第一選択薬となっています。しかし、SSRIだけで全ての不安障害が改善する訳でなく、本記事で取り上げるベンゾジアゼピン系抗不安薬や非ベンゾジアゼピン系抗不安薬は処方されます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用機序
ベンゾジアゼピン系抗不安薬はGABAA(γ-アミノ酪酸A:Gamma –AminoButyric AcidA)受容体と呼ばれるのベンゾジアゼピン結合部位に結合し、GABA(γ-アミノ酪酸)という抑制性脳内神経伝達物質の脳内作用を増強することにより薬効を発揮します。GABA受容体にはGABAA受容体、GABAB受容体、GABAC受容体の種類があります。以下にGABAA受容体とGABAB受容体の模式図を示します。GABAA受容体はイオンチャネル型受容体で、塩化物イオンが通過します。
新潟大学 六花 第25号(2018.SUMMER)より
GABAA受容体のサブユニット
GABAA受容体は5量体で、それぞれを構成するサブユニット(ここでは受容体を構成する1つのタンパク質)は19個あることがわかっています。サブユニットは大きく分けてα、β、γ、δ、ε、Θ、π、ρの8種あり、更にαはα1~α6の6種類、βのサブユニットはβ1~β3の3種類、γのサブユニットはγ1~γ3の3種類、ρのサブユニットはρ1~ρ3の3種類あることがわかっています。
GABAc受容体はサブユニットが全てρで構成された5量体のイオンチャネル型受容体となっています。多くのGABAA受容体のサブユニットの構成は2つのαサブユニット、2つのβサブユニット、1つのγサブユニットからなっています。
以下はGABAA受容体を輪切りにしたような図になります。
Uwe Rudolph et al,Nat Rev. 10(9): 685-697(2011)より
GABAA受容体αサブユニットの薬理学的役割
GABAA受容体のαサブユニットのそれぞれは以下の薬理学的役割を担っていると考えられています。
効能・効果 | 副作用 | |||||||||
GABAA受容体サブユニット | 鎮 静 | 睡 眠 | 抗 不 安 | 抗 う つ | 筋 弛 緩 | 抗 け い れ ん | 学 習 ・ 記 憶 | 前 向 性 健 忘 | 依 存 | 耐 性 |
α1 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
α2 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||
α3 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||
α5 | 〇 | 〇 | 〇 |
Uwe Rudolph et al,Nat Rev. 10(9): 685-697(2011)及びKelly R.Tan et al, Trends Neurosci 34(4):188-197を元に作成
最近ではαサブユニットを用いた分け方が主流ですが、少し前まではω1とω2という分け方が主流でした。ω1受容体はα1サブユニット、ω2はα2、α3、α5サブユニットに分類されます。
ベンゾジアゼピンとは?
何度もでてきたベンゾジアゼピンですが、以下のような主骨格をしています。

これを元に誘導体が作られ、少しずつ効き方が異なる医薬品が合成されています。実際、ベンゾチジアゼピン系でも半減期が短い短時間型と呼ばれるものから、半減期の長い長時間型と呼ばれるものまであります。 以下に一覧を示します。
よく使用されている抗不安薬の強さや半減期等は以下のようになっています。
一般名 | 抗 不 安 | 催 眠 | 筋 弛 緩 | 抗 け い れ ん | 半 減 期 (hr) |
|
短 時 間 | トフィソパム | 極 弱 | 極 弱 | 極 弱 | - | 0.5 |
クロチアゼパム | 弱 | 弱 | 弱 | - | 6 | |
エチゾラム | 強 | 強 | 中 | - | 6 | |
フルタゾラム | 中 | 弱 | 弱 | - | 3.5 | |
メタゼパム | 中 | 中 | 弱 | 弱 | 10 | |
中 間 | ブロマゼパム | 強 | 中 | 強 | 中 | 20 |
ロラゼパム | 強 | 中 | 弱 | 中 | 12 | |
アルプラゾラム | 中 | 中 | 弱 | - | 14 | |
長 時 間 | ジアゼパム | 中 | 強 | 強 | 強 | 57 |
クロキサゾラム | 強 | 弱 | 弱 | - | 16 | |
クロナゼパム | 強 | 強 | 中 | 強 | 27 | |
オキサゾラム | 中 | 中 | 弱 | 弱 | 56 | |
クロラゼプ酸二カリウム | 中 | 弱 | 弱 | 中 | >24 | |
クロルジアゼポキシド | 中 | 強 | 弱 | 弱 | ※1 | |
フルジアゼパム | 中 | 弱 | - | - | 23 | |
メキサゾラム | 中 | 中 | 中 | 中 | 76 | |
超 長 時 間 | ロフラゼプ酸エチル | 中 | 弱 | 弱 | 中 | 122 |
フルトプラゼパム | 強 | 中 | 中 | - | 190 |
※1:クロルジアゼポキシドの半減期は年齢によって半減期は変化との報告あり(5~93hr)
副作用
ベンゾジアゼピン系抗不安薬でよくとりあげられる問題は、その依存性と離脱症状です。その為、適正な使用がとても大切です。医師の処方量に問題がなく、患者さんの服用の仕方にも問題がなかったとしても、依存性が形成されることがあります。初めて処方された量を長期間服用すると耐性が形成され、効き目が悪くなり、それにより多剤投与に変更されたり、高用量が処方されたりします。そうなると次は薬が手放せなくなり、依存してしまいます。
また、急に薬の服用をやめると、離脱症状と呼ばれる症状が出現します。離脱症状は具体的には、以下のようなものがあります。
症状の程度 | 症状 |
軽微な症状 | 不安の増強、不眠症、動悸、 易刺激性、焦燥、振戦、胃腸障害、 持続的な耳鳴り、 不随意筋けいれん、知覚障害 |
重篤な症状 | 記憶障害、見当識障害、錯乱、 幻覚、妄想、けいれん発作、 離人感、運動知覚の異常 |
非ベンゾジアゼピン系抗不安薬
非ベンゾジアゼピン系抗不安薬とは、抗不安薬ではあるのですが、ベンゾジアゼピンの骨格をもたず、ベンゾジアゼピンのように依存性が形成されにくい薬になります。タンドスピロンクエン酸塩やヒドロキシジン塩酸塩などがあります。
ステム
ステムはいくつかあります。
ステム | |
ジアゼパム系抗不安薬・鎮静薬 | -azepam |
ジアゼパム誘導体 | -azolam |
構造式
各成分の構造式は次のようになっています(英名の太字+下線の部分はステムの部分です)。
トフィソパム Tofisopam (先発医薬品名:グランダキシン) |
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クロチアゼパム Clotiazepam (先発医薬品名:リーゼ) |
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エチゾラム Etizolam (先発医薬品名:デパス) |
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フルタゾラム Flutazolam (先発医薬品名:コレミナール) |
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ロルメタゼパム Lormetazepam (先発医薬品名:エバミール、ロラメット) |
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●中間型
ブロマゼパム Bromazepam (先発医薬品名:レキソタン) |
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ロラゼパム Lorazepam (先発医薬品名:ワイパックス) |
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アルプラゾラム Alprazolam (先発医薬品名:コンスタン、ソラナックス) |
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●長時間型
ジアゼパム Diazepam (先発医薬品名:セルシン、ホリゾン) |
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クロキサゾラム Cloxazolam (先発医薬品名:セパゾン) |
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クロナゼパム Clonazepam (ランドセン、リボトリール) |
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オキサゾラム Oxazolam (先発医薬品名:セレナール) |
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クロラゼプ酸二カリウム Clorazepate Dipotassium (先発医薬品名:メンドン) |
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クロルジアゼポキシド Chlordiazepoxide (先発医薬品名:コントール、バランス) |
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フルジアゼパム Fludiazepam (先発医薬品名:エリスパン) |
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メキサゾラム Mexazolam (先発医薬品名:メレックス) |
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●超長時間型
ロフラゼプ酸エチル Ethyl Loflazepate (先発医薬品名:メイラックス) |
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フルトプラゼパム Flutoprazepam (先発医薬品名:レスタス) |
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●非ベンゾジアゼピン系
タンドスピロンクエン酸塩 Tandospirone Citrate |
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ヒドロキシジン塩酸塩 Hydroxyzine Hydrochloride |
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