パーキンソン病は脳内のドパミン神経細胞が減少することによって起こると言われています。それにより、脳内ドパミン濃度が低下し、パーキンソン病の症状が現れます。現在のところ、ドパミン神経細胞が減少する理由はわかっておりません。
ドパミンを補うためにレボドパを
脳内ドパミン濃度が減少することによりパーキンソン病の症状がでるので、「ドパミンを補おう!」という考え方がレボドパによる治療(投薬)方法です。
「治療」と書くと病気が治るような印象を持ってしまうのですが、パーキンソン病のはっきりとした原因が分かっていないので、症状を抑えるといった方が正しいかもしれません。
ドパミン?レボドパ?
ドパミンを補うならば、ドパミンを摂取すればよいのでは?と思われるかもしれませんが、実際はそう簡単に事は運びません。
脳の血管(血液)と脳細胞の間で物質のやり取りをする際に、血液脳関門というバリア機構があり、ドパミンでは通過する事ができません。その為、レボドパ(L-ドパ)(先発医薬品名:ドパゾール、ドパストン)を投与します。
投与したレボドパの全てではありませんが、一部は血液脳関門を通過し脳内で酵素により、ドパミンに転換され、パーキンソン病症状を改善します。
レボドパの作用機序(ドパミンとレボドパの構造式比較)
レボドパとドパミンは下図のような構造をしています。前述の通り、血液脳関門を通過したレボドパはでドパ脱炭酸酵素によってドパミンに転換されます。そうして、脳内で減少したドパミンを補うことができます。

レボドパの副作用
レボドパは副作用として、食欲不振、悪心、嘔吐や不整脈、起立性低血圧などの副作用が認められています。また、レボドパの大量服用により食欲不振、悪心、嘔吐などの消化器症状は頻発します。
人間の体は複雑…
レボドパを投与すれば、上記の通りドパミンになり一件落着かと思いきや、そう簡単ではありません。ドパ脱炭酸酵素は肝臓や腸菅壁、血管内皮細胞など脳以外にも存在しています。
その為、レボドパの薬を経口投与しても、脳に届く前にほとんど(9割以上)がドパミンに転換されます。ドパミンでは血液脳関門を通過できないので、そうなると期待していた効果は得られません。
カルビドパによる酵素阻害
では、どうするか。アメリカの製薬会社であるメルクがカルビドパという、ドパ脱炭酸酵素の働きを阻害する薬を開発し、レボドパと一緒に服用できる配合剤を開発しました(商品名:メネシット配合錠)。
カルビドパの構造式
カルビドパは下図のような構造をしています。

レボドパとよく似た構造をしているので、ドパ脱炭酸酵素と結合すると思われます。構造は似ていますが、カルビドパ単独で使用しても脳内レボドパ濃度、脳内ドパミン濃度の上昇は見込めません。
そのため、日本ではカルビドパ単剤では発売されておらず、レボドパとの配合錠で発売されています。
カルビドパと同じ作用を持つ薬
ベンセラジド塩酸塩という化合物がカルビドパと同様に、ドパ脱炭酸酵素を阻害しレボドパの脳内移行性を向上させる作用を持ちます。
ベンセラジド塩酸塩もカルビドパ同様、日本では単剤では発売されておらず、レボドパとの配合錠で発売されています。
ベンセラジド塩酸塩の構造式
ベンセラジド塩酸塩は下図のような構造をしています。ベンゼン環の部分はレボドパとよく似ています。

COMTによるレボドパの代謝
これで対症療法ながら前進かと思いきや、また別の問題があります。それはCOMT(catechol-O-methyltransferase)という酵素による代謝です。
レボドパはドパ脱炭酸酵素によるドパミンへの代謝の他に、COMTによる水酸基のメチル化を受け、3-O-メチルドパ(3-OMD)に代謝されます。レボドパの総量が減ってしまうので、結果としてレボドパの脳内への移行量が減少する問題がありました。COMTの読み方は「コムト」と読みます。
COMTによるレボドパの代謝は以下のような化学反応になります。
代謝物である3-OMDは血液脳関門を通過し脳内に移行します。また、レボドパも3-OMDも血液脳関門を通過する時は血液脳関門に局在する大型中性アミノ酸トランスポーターを利用します。
そのため、脳移行前の血中3-OMD濃度が高くなると、血液脳関門移行時にレボドパと競合してしまい、結果としてレボドパの脳内移行を阻害することになります。
上記の通り、COMTによるパーキンソン病への悪影響は、①COMTがレボドパを3-OMDへ代謝し、レボドパ総量を減少させる。②代謝された3-OMDが血液脳関門を通過しようとするレボドパと競合し、レボドパの脳内移行を阻害する、になります。
エンタカポンによる酵素阻害
ドパ脱炭酸酵素の時と同じようにCOMTを阻害する薬としてエンタカポンを併用する事により、レボドパの代謝を防ぎ、レボドパの脳内移行性を高めます。エンタカポンは単剤(先発医薬品名:コムタン)でも、レボドパ・カルビドパ・エンタカポンの配合剤(先発医薬品名:スタレボ配合錠)も販売されています。
エンタカポンの構造式
エンタカポンは下図のような構造をしています。

左半分はレボドパとよく似た構造をしています。エンタカポンも単独使用は認められておらず、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩との併用することで国の承認を得ています。
エンタカポンの副作用
レボドパの脳への移行性を高める薬の為、ドパミン作動性の副作用が起こりやすくなります。レボドパ濃度が治療域を超えて、ジスキネジアなどが発生しないか注意する必要があります。また、エンタカポン及びその代謝物による着色尿が頻繁にみられます。
ここまでをまとめると以下の図のようになります。
参考
・ドパゾール|インタビューフォーム
・メネシット配合錠|インタビューフォーム
・コムタン錠|インタビューフォーム
・コムタン錠|CTD2.6.1
・スタレボ配合錠|インタビューフォーム
・難病情報センター(パーキンソン病)
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