睡眠薬にはベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬などがあります。本記事ではベンゾジアゼピン系睡眠薬についてです。
作用時間による分類(超短時間、短時間、中間、長時間)
ベンゾジアゼピン系睡眠薬はその作用時間の長短により、超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型に分けられます。作用時間の長短をどのように区別するかというと、血液中の薬物の消失時間を測定することで作用時間の長短を判断します。具体的には、ある時点での濃度(例えば、A(μg/mL)が半分になるまでの時間(半減期といい、T1/2と表します)で区別される事が多いです。
作用時間で分類したベンゾジアゼピン系睡眠薬一覧
半減期で分類されたベンゾジアゼピン系睡眠薬の種類一覧は以下のようになります。
一般名 | 先発医薬品名 | 作用時間 | 半減期 (hr) |
トリアゾラム | ハルシオン | 超短時間 作用型 | 2~4 |
エチゾラム | デパス | 短時間 作用型 | 6 |
ミダゾラム | ドルミカム | 4~10 | |
ブロチゾラム | レンドルミン | 7 | |
リルマザホン | リスミー | 10 | |
ロルメタゼパム | エバミール ロラメット | 10 | |
エスタゾラム | ユーロシン | 中間 作用型 | 24 |
ニトラゼパム | ベンザリン ネルボン | 28 | |
フルニトラゼパム | サイレース | 24 | |
クアゼパム | ドラール | 36 | |
ハロキサゾラム | ソメリン | 長時間 作用型 | 85 |
フルラゼパム | ダルメート | 65 |
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用機序
ベンゾジアゼピン系の薬は上記の通り、種類が多くあります。また、その作用も多くあり、不安や緊張を緩和する作用(抗不安作用)、筋肉をほぐす筋弛緩作用(筋弛緩作用)、本記事で取り上げている眠気を催す作用(催眠作用)があります。
具体的にはベンゾジアゼピン系睡眠薬はGABAA(γ-アミノ酪酸A:Gamma -AminoButyric AcidA)受容体と呼ばれるのベンゾジアゼピン結合部位に結合し、GABA(γ-アミノ酪酸)という抑制性脳内神経伝達物質の脳内作用を増強することにより薬効を発揮します。GABA受容体にはGABAA受容体、GABAB受容体、GABAC受容体の種類があります。以下にGABAA受容体とGABAB受容体の模式図を示します。GABAA受容体はイオンチャネル型受容体で、塩化物イオンが通過します。
新潟大学 六花 第25号(2018.SUMMER)より
GABAA受容体のサブユニット
GABAA受容体は5量体で、それぞれを構成するサブユニット(ここでは受容体を構成する1つのタンパク質)は19個あることがわかっています。サブユニットは大きく分けてα、β、γ、δ、ε、Θ、π、ρの8種あり、更にαはα1~α6の6種類、βのサブユニットはβ1~β3の3種類、γのサブユニットはγ1~γ3の3種類、ρのサブユニットはρ1~ρ3の3種類あることがわかっています。
GABAc受容体はサブユニットが全てρで構成された5量体のイオンチャネル型受容体となっています。
多くのGABAA受容体のサブユニットの構成は2つのαサブユニット、2つのβサブユニット、1つのγサブユニットからなっています。
以下はGABAA受容体を輪切りにしたような図になります。
Uwe Rudolph et al,Nat Rev. 10(9): 685-697(2011)より
GABAA受容体αサブユニットの薬理学的役割
GABAA受容体のαサブユニットのそれぞれは以下の薬理学的役割を担っていると考えられています。
効能・効果 | 副作用 | |||||||||
GABAA 受容体 サブユニット | 鎮 静 | 睡 眠 | 抗 不 安 | 抗 う つ | 筋 弛 緩 | 抗 痙 攣 | 学 習 ・ 記 憶 | 前 向 性 健 忘 | 依 存 | 耐 性 |
α1 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | |||||
α2 | 〇 | 〇 | 〇 | |||||||
α3 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||||
α5 | 〇 | 〇 | 〇 |
Uwe Rudolph et al,Nat Rev. 10(9): 685-697(2011)及び
Kelly R.Tan et al, Trends Neurosci 34(4):188-197を元に作成
ベンゾジアゼピンとは?

これを元に誘導体が作られ、少しずつ効き方が異なる医薬品が合成されています。上記の通り、ベンゾチジアゼピン系でも半減期が短い短時間型と呼ばれるものから、半減期の長い長時間型と呼ばれるものまであります。
副作用
ベンゾジアゼピン系抗不安薬でよくとりあげられる問題は、その依存性と離脱症状です。その為、適正な使用がとても大切です。医師の処方量に問題がなく、患者さんの服用の仕方にも問題がなかったとしても、依存性が形成されることがあります。初めて処方された量を長期間服用すると耐性が形成され、効き目が悪くなり、それにより多剤投与に変更されたり、高用量が処方されたりします。そうなると次は薬が手放せなくなり、依存してしまいます。
また、急に薬の服用をやめると、離脱症状と呼ばれる症状が出現します。離脱症状は具体的には、以下のようなものがあります。
症状の程度 | 症状 |
軽微な症状 | 不安の増強、不眠症、動悸、易刺激性、焦燥、振戦、胃腸障害、持続的な耳鳴り、不随意筋けいれん、知覚障害 |
重篤な症状 | 記憶障害、見当識障害、錯乱、幻覚、妄想、けいれん発作、離人感、運動知覚の異常 |
ステム
ステムはジアゼパム系抗不安薬・鎮静薬を示す-azepam、ジアゼパム誘導体を示す-azolamなどがあります。
構造式
各成分の構造式は次のようになっています(英名の太字+下線の部分はステムの部分です)。
●超短時間型
トリアゾラム Triazolam (先発医薬品名:ハルシオン) |
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●短時間
エチゾラム Etizolam (先発医薬品名:デパス) |
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ミダゾラム Midazolam (先発医薬品名:ドルミカム) |
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ブロチゾラム Brotizolam (先発医薬品名:レンドルミン) |
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リルマザホン塩酸塩水和物 Rilmazafone Hydrochloride Hydrate (先発医薬品名:リスミー) |
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ロルメタゼパム Lormetazepam (先発医薬品名:エバミール、ロラメット) |
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●中間型
エスタゾラム Estazolam (先発医薬品名:ユーロジン) |
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ニトラゼパム Nitrazepam (先発医薬品名:ベンザリン、ネルボン) |
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フルニトラゼパム Flunitrazepam (先発医薬品名:サイレース、ロヒプノール) |
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クアゼパム Quazepam (先発医薬品名:ドラール) |
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●長時間型
ハロキサゾラム Haloxazolam (先発医薬品名:ソメリン) |
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フルラゼパム塩酸塩 Flurazepam Hydrochloride (先発医薬品名:ダルメート) |
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参考文献
・各製品インタビューフォーム
・新潟大学 六花 第25号(2018.SUMMER)
・Uwe Rudolph et al,Nat Rev. 10(9): 685-697(2011)
・Kelly R.Tan et al, Trends Neurosci 34(4):188-197
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